クルマ漬けの毎日から

2015.10.19

ティーンエイジ・フリーダム

The never-to-be-forgotten feeling of freedom

 
花火を打ち上げ、鐘を鳴らして盛大に祝いたい気分だ。かみさんがついに新車をオーダーした。ランドローバー・イヴォーク、BMW i3、ヒュンダイi10、フォルクルワーゲンup!、そして他にもたくさんのクルマを慎重に検討した結果、7年間乗ったフィアット500のディーゼルをなんと別のフィアット500に買い替えようとしている。今回買う500は、105bhpのツインエアだ。当初、私はフィアットの個性的な2気筒エンジンを選んで本当によいのだろうかと気になっていた(ツインエアは魅力的なエンジンだが、‘理解’ が必要だから)。だが、最新モデルではパワーは23%アップし、走りもスムーズでスロットルのレスポンスもいっそう直感的になっている。この新しい500は販売が終了するモデルではあるが(おかげで3500ポンド節約できた)、500のサスペンションはこの7年間で何度か改善されている。それに、100mも走らないうちに、ノーズが大幅に軽くなったことに気がつく。だが、このフィアットに買い替えてやはり正解だったと確信したのは、何と言ってもかみさんのこのひと言だった。「私、ツインエアを本当に気に入ってるわ」

 

 
自動車会社のトップが読者の皆さまや私と同じようにクルマ好きだとわかる時は、極めて特別な瞬間だ。ビジネスの厳しさは、自動車業界のトップたちからクルマが好きだという情熱を冷ましてしまう傾向がある。だが、最近、欧州フォードの社長兼CEOのジム・ファーリーがロンドンのオートカー編集部を訪れた時、彼がエンスージァストであることがわかった。ファーリーは決して豪華とは言えない編集部の写真資料室でインタビューに応じることに同意し、クルマが大好きだという証拠をたくさん見せてくれた(もちろんビジネスの話もいろいろ聞いた)。

 
ファーリーはこう話した。「私にはお金がありませんでしたから、学校が長期休暇に入ると、アルバイトをしていたんです。そのうちのひとつは、自宅から遠く離れたエンジンのリビルト工場での仕事でしたよ。ここで働いていた時、ポンコツのマスタング(1965年モデル)を買ってエンジンをオーバーホールし、その間ずっとこのクルマで寝起きしていたんです」

「アルバイトが終わった時、帰りの飛行機のチケットを現金に換えてそのお金でガソリンを買いましてね。それで、ミシガンの家までマスタングを運転して帰ったんですよ。運転免許はもってなかったし、自動車保険にも入っていないのに。それにマスタングには、スペアタイヤすら載っていなかったんです。そりゃもちろん、両親にはこういったことは話しませんでしたよ。このマスタングを洗車したり、のんびりドライブしたりする時間がとても好きだったんです。あの解放感はずっと忘れないでしょうね」

 

 
今年のフランクフルト・ショーのハイライトは、GMの話題のCEO、メラリー・バーラの登場だった。バーラはフランクフルトにはあまり長く滞在しなかった。イグニッションスイッチの深刻なスキャンダルの余波に対処していたからだ。こういった案件は、アメリカの自動車業界を定期的に悩ませている。幸運にも、私はこのCEOと同じテーブルで食事をした。まわりにいたのは社交家と礼儀をわきまえた社員たちで、私以外に報道関係者はいなかった。それで、バーラと少し話ができた。GMのトップは非常に有能で歯切れが良く、また気さくな人という印象を持った。自己中心的な人でもなく、一緒に働きやすい人のようだ。バーラには気取りがまったくない。勤勉で、ビジネスとプロダクトの知識を豊富な経験によって培ってきた。技術に強い関心を持つバーラは私にこう話した。「私の事例でもっと多くの女性がテクノロジーに興味を持つきっかけになったら、とても嬉しいです」 GMという扱いにくく、いつも何かが起きている巨大な会社を着実に指揮していけるのは、私が知っている他のだれよりもこの人にちがいないと確信し、一日を終えた。

 
アメリカの排ガス規制を逃れるため、長期にわたって不正を行っていたことをフォルクスワーゲンの上層部が認めたニュースを聞き、衝撃を受けた。読者の皆さまもさぞ驚いたことだろう。大勢の人たちがフォルクスワーゲンを高く評価してきたが、その信頼を深く傷つけた。私が個人的にフォルクスワーゲンは素晴らしいと最初に思ったのは、50数年前にビートルのドアをバタンと閉めた時だった。

 
私の頭の中では次から次へと疑問が浮かんでくる。あのような道理に外れた装置をいったいだれが考え出したのだろう? そしてそれを採用するとは、意思決定をした人はなぜそれほど節操のない判断をしてしまったのだろう? それに検査機関が不正な技術を見つけられないと考えるとは、なんて考えが甘いのだろう? CEOだったマルティン・ウィンターコルン(個人的には人当たりがやわらかく、クルマが大好き)は経営陣の中で最初に辞任したが、彼がこの件をまったく知らなかったというのは本当なのだろうか?

そして次に、現実的な疑問が思い浮かぶ。不正を行ったのはフォルクスワーゲンだけだと本当に信じてよいのだろうか? (以前、複数のバイクメーカーがエンジンのトルク曲線に ‘トリック’ を組み込み、走行時の騒音規制に適合させようとしたことを思い出す)。私の妻はディーゼル車をガソリン車に買い替えたばかりだが、気まずさを感じながらも、ディーゼルを手放したことを喜んでよいのだろうか? もし走行距離50,000mile(約8万km)で状態のよいフォルクスワーゲンのディーゼルを所有していたら、この問題が発覚する前と後とではその価値にどれほどのちがいがあるだろうか? フォルクスワーゲンの60万人の社員の内、罪のない99.9%の人たちのことをどの程度気の毒だと思えばいいだろうか? そして、この一件はいったいどのように展開して行くのだろう? だが、こういった状況でも、問題のディーゼルを所有しているオーナーは、今夜も来週もそして来月も自分のクルマを運転して家を出発し、帰って来なければならない。これは私たちが生きているこの新しい時代の理不尽だと思う。

 
ポルシェのトップ、マティアス・ミュラーがフォルクスワーゲン・グループのトップに決定したというニュースを聞き、すぐにふたつのことが頭に浮かんだ。ひとつは、何人もの役員が辞任しなければならなくなるこの状況で、渦中に身を置き、すべてに立ち向かおうとするのはよほど度胸がある人物だろうということ。もうひとつは、ポルシェが2013年にLAでマカンを発表した時のミュラーを覚えているが、彼は感情を表に出さない人で、カリスマ性もないタイプだということだ。それから、フォルクスワーゲンと報道関係者の今後の関係はどうなるのだろうかと考えた。フォルクスワーゲンはわれわれと新たな友好関係を築くだろうか? それとも厳しい報道をした者たちと敵対するだろうか?

 

早朝、高速を走ってコスワースへ向かった。新生TVRを率いるレス・エドガー(写真右)とジョン・チェーシーが新型ル・マンカーのV8エンジンを初めて始動させるのを見るためだ。感動的なイベントだった。新型エンジンの作動とサウンドが素晴らしかったからだけでなく(トルクが予想される限界を超えたため、ダイナモが自動停止した場面もあった)、最高レベルのカーエンスージァストであるTVRの関係者たちの顔がとても嬉しそうだったからだ。

 
自動車ビジネスに携わっている人はご存じだろうが、新たに自動車会社を創業するにあたっては、退屈な仕事をいくつも根気強く進めていかなければならない。だが、そんな中で今回の出来事はまちがいなく満足感を味わえるステップのひとつだったにちがいない。

新型エンジンの初始動は、TVRを手に入れたいと考えている人たちにとっても素晴らしいニュースだ。チェーシーとエドガーによれば、市販向けのTVRとル・マンカーの間には、わかりやすい確かな関連性があると言う。

イギリスのノーサンプトンに本拠地を置く有名なエンジンメーカー、コスワースを訪問するのは久しぶりだった。この会社が短期間で、超ハイテクのコンポーネントを高度に機械化したメーカーへと発展しているのを見て、実に驚いた。

translation:Kaoru Kojima(小島 薫)


 
 

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